3次元物体追跡トレーニングによるサッカー選手のパスにおける意思決定の正確性の向上

※こちらの投稿は、「Psychology of Sport and Exercise」という雑誌に掲載された「3D-Multiple Object Tracking training task improves passing decision-making accuracy in soccer players」という記事(論文)を翻訳し、紹介しています。

原文:http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S1469029215000631


ハイライト

  • 3D-MOT知覚・認知トレーニングを用いてサッカー選手をトレーニングした。
  • 意思決定に関するトレーニングをフィールド上に転用できるかを評価した。
  • フィールド上でパスを出す際の意思決定が、3D-MOTトレーニング後に向上した。
  • 3D-MOT群の選手では、意思決定する際の自信に比例的な改善が見られた。
  • 3D-MOTは、スポーツを特定しないトレーニングとしてはフィールド上のアスリートに初めて転用されるトレーニングである。

目的

状況に左右されない3次元複数物体追跡(3D-MOT)の成績は、アスリートのパフォーマンスに高い関連性を示す。本研究では、これまで実験室内で行われていた知覚・認知3D-MOTトレーニングをフィールド上に転用可能かどうかを評価した。サッカーは、動的な視覚場面を正確に読み取る能力を必要とするスポーツである。

研究デザイン

トレーニング前後のセッションにおいて、対戦相手に勝つために用いられる3つの基本スキル(パス、ドリブル、シュート)を分析した。

方法

大学レベルのサッカー選手(23人)にトレーニングプロトコルの前後に少人数制トレーニングを行わせ、意思決定の正確性を記録した。実験群(9人)とアクティブコントロール群(7人)に対しては、3D-MOTまたは3Dサッカービデオを用いたセッションをそれぞれ10回実施してトレーニングを行った。パッシブコントロール群(7人)に対しては、トレーニングや指導を行わなかった。

結果

3D-MOTのトレーニングを受けた実験群では、セッション前後でパスの意思決定の正確性が対照群よりも改善していた。しかしドリブルとシュートではそのような違いは見られなかった。この結果は、セッションの前後に視覚アナログスケール(VAS)を用いて測定した意思決定の正確さに関する選手の主観的な評価結果と一致している。

結論

この結果は、我々の知る限り、状況に左右されない知覚・認知トレーニングエクササイズをフィールド上のアスリートに転用できることを示した最初のエビデンスである。

キーワード

  • 知覚・認知トレーニング
  • 転用
  • 少人数制トレーニング
  • アスリート

はじめに

サッカー(アソシエーションフットボール)のようなダイナミックなスポーツにおいては、「ゲームを読む」能力が、スキルの高い選手とそうでない選手の違いになる。しかし、アスリートの能力を決定づけているのは視覚ではなく、視覚トレーニングプログラムの効果をフィールド上に転用しうるというエビデンスも示されていない。むしろ、スポーツ科学者は、予測や意思決定がさまざまな能力と密接に関連していることを示して、「ゲームを読む」能力を解明しようとしてきた。予測や意思決定は、視覚場面から意味のあるコンテクスチュアルな情報を抽出する脳の能力で、スポーツにおいてハイレベルなパフォーマンスを発揮するうえでは欠かせないものである。このような能力は、一般的に知覚・認知スキルと呼ばれ、知覚・認知の両プロセスが果たす役割を示している。

アスリートの高い知覚・認知能力が何に起因するのかを解明するアプローチは、大きく分けて2つある。第1の最も一般的な理論はアスリートの熟練性を裏付けるもので、熟練パフォーマンスアプローチに基づいている。このようなアプローチでは、上級者、中級者および/または初心者に、特定の領域のトレーニング、また場合によっては競争場面で必要となる行動に代わるトレーニングを行わせ、その比較を反映させる。その結果、基本的に上級者は、ビジュアルキューの活用、パターンの記憶および認識、視覚検索戦略、状況における確率性の把握などスポーツ特有のトレーニングにおいて、中級者および/または初心者よりも優れていることがわかった。これらの能力は、ゲームインテリジェンスの高さと関連性があるとされている。これに対して認知コンポーネントスキルアプローチは、スポーツにおける能力の高さがスポーツ特有の領域以外でも基礎的な知覚・認知機能に影響を与えているかどうかを見る。このアプローチは、スポーツというコンテクストに依存しない、より基本的なパラダイムに基づき、スポーツ環境における身体的整合性よりもむしろ認知的整合性を比較する。そもそも身体活動が脳の可塑性を高め、認知機能や実行機能を改善することはよく知られた事実である。

例えば、実行機能テスト(神経心理学的評価ツール)の結果とその選手が2シーズン後に決めたゴール・アシスト数には、有意な相関関係が認められる。上記論文は、認知機能テストの結果から、将来トップ選手として成功するかどうかを予測できる可能性を指摘している。さらに、上位認知機能が、ユース選手の才能の発掘や開発に利用できる可能性を指摘した論文もある。またVossらによる最新のメタ分析では、処理速度および視覚的注意力の測定で高い数値を示した選手ほどスポーツ能力が高いことが示されている。さらにAlvesらは、バレーボール選手と非アスリートの対照群を比較し、2つの実行制御トレーニングと1つの視空間注意的処理において違いがあることを発見した。

さらに最新の研究では、道路を横断する歩行者などがいる人混みの場面で現実的な複数のトレーニングを行う実験や、三次元複数物体追跡(3D-MOT)トレーニングでの動的な視覚場面における物体の複雑な動きや静止状態の学習においても、アスリートは非アスリートの成績を上回っており、両者の間に興味深い有意な違いがあることが示されている。これらの研究は、認知コンポーネントアプローチを用いることによって競技スポーツのトレーニングに関連する基本的認知スキルを測定することができるという主張を裏付けるものである。

学習または損傷後の脳の可塑性に関して新たなエビデンスが示されていることを受け、 その論文の中でアスリートの知覚・認知トレーニングの方法論について述べている。この方法では、「ハイレベル」な3D-MOT知覚・認知トレーニングが使用される。

これは、そのようなトレーニングが非常に多くの脳のネットワークを同時に刺激するためだ。そのようなエクササイズにおいて、複雑な動きの統合、動的・持続的・広範囲な注意の処理、ワーキングメモリの処理を行うためには、多くの脳のネットワークを同時に利用する必要がある。以前の論文では、このような方法で3D-MOTトレーニングを行った結果、プロのアスリートは動的な視覚場面における物体の複雑な動きや静止状態の学習において、中級者や初心者よりも驚くほど高いスキルを持つことが明らかになったと述べている。

この結果は、アスリートのパフォーマンスレベルと、非現実的で高い集中力を要する動的場面の学習トレーニングで要求される基本的集中能力との間に明確な違いがあることを示している。

複雑かつ予測不可能な動的コンテクストの学習速度の速さが、エリート選手のパフォーマンスに必須の要素なのではないかと同論文は指摘している。最近の研究では、3D-MOTの成績は、バスケットボールコート上のさまざまな刺激を視認し、反応する能力と関連している可能性が非常に高いのに対して、単純な視覚運動の反応時間はバスケットボールのパフォーマンスを示すいかなる測定結果にも関連性がないことが明らかになっている。

さらに最新の神経学的エビデンスによって、健康な若者の認知能力の改善に3D-MOTが果たす役割も証明されている。実際に3D-MOTトレーニングのセッションを10回行うと、神経心理学的テストや定量的脳波検査において注意力、視覚情報処理速度、ワーキングメモリーに改善が見られる。このほか、高齢者によるバイオロジカルモーションの知覚など社会的に有益なトレーニングに3D-MOTトレーニングが転用可能であることが、その他のエビデンスによって示されている。

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