概要

競技パフォーマンスのためのニューロトラッカー概論

スポーツでは、どのように視覚を利用しているのか?

私たちは、主に2つの経路で視覚情報を受け取っています。
1つ目の経路は、中心窩(人間の視野の中心点。中心窩では、鮮明で詳細な視覚が得られる。)によってもたらされる詳細な視覚です。その範囲は視野全体のごく一部にすぎませんが、きめの細かい情報が提供されます。
2つ目の経路は周辺視野(人間の視野の非中心領域。周辺視野の視覚は、動きや色を詳細には認識しない。)です。視野の大部分を占めますが、詳細や焦点はほとんど得られません。焦点が合っているように思える全体像を脳が構成できるのは、風景全体に向けて眼球を素早く動かしていることによるものです。


一般に、人は絶えず周囲を見回して、何かのきっかけを得たり、特定の対象を識別したりしています。視覚探索法(視覚的環境で特定の物体や特徴を見つけ出す行為。)を用いることで、自分の意思決定に最も重要な対象を素早く発見することが可能になります。スポーツ選手の場合、基本的に、意思決定に最も重要な「対象」は他の選手の体の一部やボールです。最も重要な追うべき対象を決定した後に、対象への視覚の集中を何度も繰り返すことにより、選手は脳が無意識に構成する光景を選択的に更新します。これはスポーツでは重要なスキルですが、選手の注意力の多くを犠牲にしてようやく得られるものであり、見回すポイントとポイントの間では視覚が完全にぼやけてしまうことも多々あります。


試合中の視覚探索に関して、研究により明らかになっていることは、一流スポーツ選手は(a)視野における見回すポイントの数が少なく、(b)見回す各ポイントを注視する時間が長い、ということです。言い換えれば、最も成功している選手は、フィールドのどこを見てどの情報に注意を払うのかを選択する能力が最も優れているということになります。


一方、初心者は、見回す精度や効率が劣っている傾向があります。初心者は多くの箇所を詳細に見回しているにもかかわらず、フィールド上の重要な動きに関する情報をほとんど得ていません。これは、多くの対象間を見回している選手は、実際には周囲に対する認識が低下しているためです。原因は、離れた2地点の間で視線を動かしている時に、脳の認識がほんの一瞬、自然に失われることにあります。つまり、眼の動きが多くなればなるほど、認識力を維持できる時間は短くなるのです。


研究の結果、選手の周辺視野は視支点(中心点を集中的に注視する一方で、周辺視野全体に注意力を分散させるという知覚テクニック。)として知られる方法を用いる訓練により、能力を向上できることが明らかになっています。視支点を用いて、選手は一点に焦点を合わせる一方で、その点の周囲の視覚情報を収集します。これには、次のような二重のメリットがあります。(1)熟視することにより、選手が周辺視野から収集できる情報の質が向上します。(2)選手はその光景を見回す代わりに、認識に注意を集中することができます。


[フィールドでの視支点]
クォーターバックはパスをするためにドロップバックして、ディフェンスの動きを読んでいます。ここで、コーナーバックからセーフティへ、さらにラインバッカーなどへと視線を素早く動かすのではなく、フィールド右側の中央部を注視し、周辺に対する注意力によりディフェンス全体の形を捉えます。その後、フィールドの左側に視野を向けて再び中央部を注視し、深い位置にセーフティが1人いるだけだということに気付きます。そこで、そのクォーターバックは左サイドラインにパスを投じます。


スポーツビジョンの要点:

  • 中心視は詳細を捉えます。周辺視野は動きを捉えます。
  • 視覚探索とは、周囲を見渡して重要な情報を見つけることを表す用語です。
  • 視覚探索に時間を費やすことにより、選手の認識は低下します。選手が認知力を、(今起こっていることに注意を払うために使うのではなく)探索に使うことになるからです。
  • 視支点は、認識を高めるための方法です。選手は、あちこちに視点を移すのではなく、重要な一点に集中します。